montokokoroの日記

悶モンって名前でTwitterしてます

2022年に読んで良かった本10冊 前編

Twitterで2022年に読んで良かった本を10冊選んだので、多少感想をまとめようかなと思います。

 早速ですが、あまり書く気になれないですね。数百日前に読んだきりの本もあり、感想とか忘れたというのもあります。が、それ以上に傑作とされる小説を自分の字で感想を書くという作業が歯がゆくもあり、恥ずかしくもあり。小説という文字の媒体を同じく文字で良さを伝えようというのが恥ずかしいし、全然表現しきれてないという歯がゆさもあります。例えるなら、ピカソの作品のすごさをイラストで解説するなんてことは本末転倒というか、伝えきれる訳ないじゃん。

こっちもはなから100%伝えきろうなんて思ってないけど、やはり恥ずかしい。それに小説の印象とは読後に作品全体を通して得られるもの。大量の文字を読んでいくなかで生じた文字にならない結晶のようなものです。多分。天才鬼才新人大御所、などなど多くの先生が執筆した数万文字で伝えようとしている抽象的なものや物語の流れから生じることを、私ごときの凡庸な人間が数行で表そうとする行為自体がおこがましい。

つらつらと言い訳を連ねたけど、自分の文章の拙さと、思ったことを綺麗に文章化出来ないいらだちを正当化したいだけです。では、2022年読んで良かった本10冊の紹介と感想です。内容にも言及するので、見たくない人はどうにかしてください。

 

 

1,そこのみにて光輝く/佐藤泰志

最初から紹介しづらい。あらすじはどうでもいい。生きることのどうしようもない難しさみたいなものを感じた。良いことが起きそうだと思ったら思わぬ理由で頓挫したり、くずみたいな人との過去が尾を引いたり。主人公と周囲の人間の人生の大部分を読まされる小説に、たったいくつかの言葉だけの感想など抱きようが無い。

この作品に限らず本を読んでよく思うことは、なぜ作者はこのタイトルにしたのかということ。この作品のタイトルは作者の祈りだと思う。余談だが、作者の小説は多く映画化されている。作者の佐藤泰志は1990年に自殺したが、2010年代に次々と映画が作られた。「海炭市叙景」「きみの鳥はうたえる」「オーバー・フェンス」「そこのみにて光輝く」「草の響き」など。この中のいくつかを見たが、個人的には「草の響き」が良い作品だった。演技がめちゃくちゃうまい。

また、作者の小説はほとんどが短編集なので読みやすい。

 

2,草枕/夏目漱石

これも紹介しづらいし、紹介の意味がない。一応のあらすじは、主人公の画工が温泉宿に泊り奇妙な女性と出会うという内容。だけど筋というものがまったく重要視されていない。唐突に漱石の人生観や芸術論が始まったり、近代化以降の西洋化していく日本を批判したりいろんな筋のものがごちゃまぜになっている。使われている語彙も難しいし、絵画や漢詩の話はほとんど分からない。現代でも分かりやすいように注が付いているがその数は300を超えている。そんなものを読みながら小説を読むのは難しいけどあまり気にせず読んでいいと思う。そうやって適当に読んでいればどこかすっと入ってくる文章があって、それがとことん美しい文章で出来ている。

この小説はほとんど理解してないです。でも、読んだ後の感じが他の作品と違っている。理解出来なかったなら退屈になるか、今の自分には早すぎたと思ってさっさと読んで次の本に手を伸ばせばいいけど、そういう理解できなさではない。読み終わった後にその作品に包まれて世界の感じ方が変わったような作品は、多分私にとっての名作だし、今後もいつか読みたいと思う。というか2023年の年始に読んでた。

小説家の夏川草介夏目漱石とこの作品をかなり溺愛しているけど、漱石を初めて読む時に草枕は読むなと注意している。それも草枕の解説で。草枕を買ったらその中の解説でこの本を読むなと注意しているのは面白い。そのくらい異質な作品らしい。夏川草介を読んでから草枕に興味を持ち、彼が解説を書いている草枕があったら絶対買うじゃん。で、買ったらそんなことが書いてある。なんじゃそりゃ。

漱石は高校の教科書に載っている範囲でこころを読んだだけなので、他の作品も読んでみたいと思う。

 

3,何者/朝井リョウ

2012年に直木賞を取った作品。大学生の就活の話。こちとら就活せず大学卒業後ニートやってる身分なんで、就活ってこんなに大変なんだなーとか思ってた。感想が馬鹿すぎる。就活っていう制度のめんどくささとか理不尽さと、それでも就活する人達の苦しみと葛藤の話です。拗ねた感じの奴が就活の批判して、そんなもんしねーって感じだしてるのに、こっそり説明会とか行ってるのは面白い。

主人公の自意識をめっためたに殴られる作品です。丁寧に主人公の厄介さを準備して、最後の数十ページでぼこぼこにされる。主人公は善良そうに見えて結構いろんな人を内心見下してるんですが、それが自分のコンプレックスの裏返しだったりする。そこまではよくある話ですが、主人公の自意識とかコンプが嫌に現実的で、そこを指摘されるのは自分事でもありつらい。SNSの裏垢とかの話も出てくるのでその辺りも現代的で身近。今ではアカウント複数持っているのは普通な気もするけど、2012年に直木賞取っているとは。10年前にこれ書いたのか。すごいな作者。逆にこの作品で主人公と自分がそこまでかぶらない人は、そのまま頑張ってください。あなたの進む道は正しい。多分。

気になったのは、説教が多いこと。大体3回くらい主人公がはっとさせられる場面があるが、それらは全部言葉で伝えられるだけで事件があった訳では無い。ただ、事件を起こせるのはある程度尖った人間だけなのかもしれない。主人公はそういう尖りを抑えて、冷静な傍観者であろうと努めている。それが妙な自意識を産む。この自意識は現代人なら誰でも少なからず持っている気がするし、これが大きすぎると本当に厄介。他人に見られているという意識、自分の考えが見透かされているという意識。でも、捨てることは出来ないので腹をくくるしかない。首をくくるよりましだろう。

 

4,色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年/村上春樹

初めて読んだ村上春樹です。彼の作品って全部こんな感じに書込まれてるの?だとしたらハルキストと呼ばれている人達の気持ちがたった1冊で分かってしまった。もっと読むと別の凄さが出てくるんだろうけど、とにかくすごい文章力。1つの事実や、主人公の心象などを婉曲に複数の文章で描く。薄い絵の具を塗り重ねるような描き方で、文章の使い方がすごい。回りくどいと紙一重だけど、文章の美しさがそんな領域から遠い域に達している。文章自体は読みやすいので、気付いたらかなり読んでいる。

あらすじ。主人公は高校時代の4人の友人達から大学時代に急に縁を切られる。その真相を知ろうとせずにその後ずっと生きてきたけど恋人から進められて過去の真相を探ろうとする話。

過去を探る話なので回想が多い上、夢や、主人公の友人の父親の昔話が出てきたりいろんな場面に飛ぶ。そういったいろんな過去から現在を描く感じも文章同様幾重に表現を重ねるような構図になっている。結局現実は何だったのか、あの夢や昔話は何を意味しているのかなど謎は残り、読後もひっかかる感じがする。全ての問題に対して一応の答えが出される前に、しかも答えが出そうな状態で終わる。煙に巻かれたような。実際読み終わった時、明らかに続きをわざと切ったように感じた。一番大事なオチを書いてないじゃんって感じ。

それと、登場人物のほとんどハイソです。金に一切困ってない。金使いが荒いのではなく、上質な暮らしを苦も無く維持している。無印良品のカタログをグレードアップしたような暮らしぶりが目に浮かぶ。その辺は「そこのみにて光輝く」とは逆。あっちは薄汚れたどうしようもない暮らしが分かる(映画見たせいで、文章が映像化されている)。色彩を持たない主人公の暮らしは脱色されたように汚れを感じない。汚れとは個性というか人間らしさ。それがない。

本自体も、すごい作りになっている。まず目次がない。文庫で400ページ超えているので章ごとにサブタイトル振って、それを目次にしたほうが読みやすいとは思うけど、それが一切なく最初から本編が始まる。そして本編が終わったら何もない。作者の後書きや他の作家や友人の解説とかが一切ない。400ページまるごと作品だけで出来ている。すっきりしている。この無駄を省く感じも無印良品っぽいし主人公らしい。他の村上春樹の作品もこうなっているのかな?だとしたら美学を感じる。

 

5,臨床の砦/夏川草介

夏川草介は「神様のカルテ」シリーズなども有名で、そっちも大好きです。作者は現役の医者で、この作者の作品はほとんど現代の医療の話です。「始まりの木」は民俗学、「本を守ろうとする猫の話」は本そのものを扱った話で例外的だが面白い。これらの2冊はテーマは作者の本領の医学と違っても人に対して常に真摯だ。いろんなテーマで書いているにも限らず、一貫したものがあるとしたら、それこそ作者の特徴と言えるかもしれない。

夏川草介ペンネーム。夏目漱石の夏、川端康成の川、芥川龍之介の介を取ったらしく、その辺りの時代の作家の本を子供の時から好んで読んでたそうで。そして、草は草枕から取ったらしい。夏目漱石から既に夏の文字を取っといて、その上彼の草枕から草を持ってくるという暴挙。もっといろんな作家いるでしょ。どんだけ夏目漱石草枕好きなんだ、と言いたい。既に少し触れたが、彼は草枕の解説も書いておりそれだけで購入の価値はあるほど面白い解説だった。解説って結構面白いものが多い。もともと文章の上手な方が好きなものを好きな様に書いてたり、こっちが読んでなかった読み方で作品の解釈をしていたり、読書をより面白くするものだと思う。

この本のあらすじ。新型コロナで病院大ピンチ、医者はてんやわんやの大騒ぎ。以上。シンプル。まあ、新型コロナは日本人全員が被害者ですが、医療現場は壮絶だという話で、発売日は2021年の4月。新型コロナが発生して1年と少しっていう時期に出版された。コロナ患者を受け入れる病院は本当に様変わりしたというお話。忙しさとつらさばかりが伝わってくる。しかもこの本は既に古くなってきている。コロナとのつきあい方が変わってきたので、当時ほど大変な病気という印象が薄れてきている。最近は1日の新規感染者が1万人超えることにも慣れてきている。でも、2020年の春頃は違っていた。あの時は世界が終わるようだった。感染したら最後、死ぬか重い後遺症が必ず残るのではないか。たった数人、数十人の感染者数で大騒ぎしていた。医者も専門家も不明なことばかりで、ワクチンなんていつできるのかも分からなかった。そんな時に、患者を受け入れていた病院と戦った医者達がいる当たり前のことを思い出させてくれる。例えば、病床使用率はコロナの流行と医療現場の逼迫さを示す1つの指標だけど、感染者用の病床を1つ増やすだけでも多大な犠牲が必要で、そういった現場の苦労と熱量を私は一切知らなかった。もちろん、コロナが流行ったからといって他の病魔達が休んでくれるわけでもなく、通常の業務の方が本業。さらに主人公は妻子持ちで、家族への風評被害を恐れて意地でもコロナをうつしたくない。いろんな方面から問題が投げつけられ四苦八苦している医者の姿を嫌なほど見せられる。主人公の言うとおり、「負け戦」だ。

作者の代表作である「神様のカルテ」は医者や看護師達は1つのチームで一枚岩だった。2や3などシリーズの続編では違う姿勢の医者が出てきたりして面白かったが全員が地域医療の支えという自覚のもと働く高貴な集団だった。「臨床の砦」では医者達の分断も描かれている。なんせ相手は未知の感染症だ。同じ病院の中でも、コロナ患者を診るグループとそれ以外では認識がずれており、新規患者の受け入れの制限など運営方針の意見なども安全面から考慮され、国の発表も当てにならない。どういうスタンスでコロナに向き合うかも定まってない。さらに他の医療機関と連携がとれなかったり、行政との認識のずれなど、とにかく分断が強調されていた。その中で直接コロナ患者と対面する医者の苦労。

読んでてつらい。けど、そのつらさを告発するためだけの作品で終わっていない。医者は聖人君子ではなく、だれもが悩み問題を抱えながらも決してやけにはならない。そういった強さが読めば伝わってくる。

 

長くなってきたので後の5冊は別にします。これでもはしょったんだが、文字制限とかフォーマットを考えずに書くとこうなるのか。ちなみに残った5冊は全部SF。

こうご期待。