2025年 ベスト10冊
あけましておめでとうございます。
もう2026年になって10日以上たつが、呑気にもいまさらこんな記事を上げる。
去年は63冊本を読んだ。週1冊を少し上回るペースだ。資格の本とか雑誌は計測していないので、実際はもっと読んでると思う。
再読の本も結構あった。「イリヤの空、UFOの夏」は何度読んでも面白いのだ。
2025年に初めて読んだ小説の中で面白かった本を10冊紹介する。
1.あなたの人生の物語 テッド・チャン
8つの短編が収録されている。どれも傑作のSFだ。
巨大なばかうけみたいなものが突然世界中に現れてから始まる表題「あなたの人生の物語」は「メッセージ」という映画にもなっている。異星人とのファーストコンタクトが描かれているが、言語の違いによる世界の感じ方の違いを表してもいる。
他のどの作品も名作だ。
「顔の美醜について ドキュメンタリー」はかなり考えさせられる話だ。カリーという、顔の美醜についての判断力を失う処置に賛成か反対か。その問いに対して多くのキャラが自論を述べていく作品。副題のように、ドキュメンタリーを見ているようだ。カメラが多くの人々に、最新技術に対する是非を問う。「あなたは〇〇に賛成ですか?反対ですか?」
良いSFは現実離れした技術や世界を描くだけではなく、そこに住む人々と社会を描く。人々はその技術をどう受け入れ、あるいは反発し、それを生活に落とし込むのか。それで生じる考えや人生の変化を、現実との相違点を思いながら読むのが面白い。カリーを使えば、他人の顔を認識する時に、美醜の判断がつかなくなる。そうなると、人々の考え方はどう変わるのか。大勢の人物が自論と経験を述べていく。
2.華氏451度 レイ・ブラッドベリ
本が違法となり、燃やさなければいけない世界。隠された本を燃やす仕事、消防士ならぬ、昇火士が存在する世界。主人公のモンターグも昇火士であるが、自宅に本を隠している。
梵書は実際に行われてきた歴史である。それは支配者が自分たちに不都合な真実や歴史、知識を改ざんするために行われてきた。今や、真実は情報を隠ぺいするのではなく、大量の嘘に埋もれされる時代のように感じる。僕らは何が本当で嘘か、見分けるのがすごく難しい世界に生きている。本が焼かれて歴史が途絶えるのではなく、多くの嘘で本当が埋もれる時代。本物より魅力的で、直観的に支持したくなるような嘘や物語が溢れる時代。
「華氏451度」の世界は恐ろしいが、その反対側に今の世界は身を置いているような。そんなことを思ったり。
クラリスやベイティーといった、主人公モンターグの周囲の人間が魅力的な描かれ方をしており、また読み返したい一作だ。
3.プロジェクトヘイルメアリー アンディ・ウィアー
10pごとに面白い。ひとつながりの物語なのに、ショート動画をずっと見ている気分だ。情報の開示のテンポ感がすごく良い。恐ろしく計算されて配置されたストーリーで、事実が一つずつ明らかになり、物語が進んで行く。読者を飽きさせないための努力がえげつない。
今年映画化されるらしい。内容があれなので、あまり多くは語れないが、予告編の時点でネタバレではある。
というか、1ページ目の宇宙船の見取り図、いやそれよりも、表紙の時点で序盤のネタバレではある。主人公は記憶喪失で、自分が誰でどこにいるのかも分らない。「ここはどこ?私はだれ?」状態だ。数十ページかけて判明することが、そこが地球上ではないことなのだが、表紙を見れば丸わかりである。完全にネタバレを伏せることは難しい。
4.ザリガニの鳴くところ ディーリア・オーエンズ
20世紀後半、アメリカの海辺の湿地帯、その中にある小さな村が舞台。主人公のカイアは貧しい家庭に生まれた小さな女の子。彼女の両親と兄弟はバラバラに家を出ていき、カイアは一人で生きていくことになる。学校にも通わず一人で生き抜いてきたカイアが20才を超えたころ、村で殺人事件が発生し、カイアは容疑者となる。
この物語は、少女のカイアがどうやって生き延びるのかというサバイバルと、不可解な事件のミステリーという二軸で構成されており、そこが大きな見どころだ。しかし、この作品はそれだけにとどまらない。カイアは一人自然の中でほとんどの時間を過ごし、食料をとったり自然の観察をしたりする。そこで描かれる湿地帯の自然の豊かさと、そこに住む動物の生き様の奥深さも多く描写されている。かつ、その村の貧富から生じる格差、当時のアメリカにあった人種差別など社会的側面も描かれ、多くの見どころがある。
非常に多くの切り口から物語を見ることができる。
5.動物農場 ジョージ・オーウェル
「1984年」でも有名な作家の、ディストピア小説。「1984年」とは違った形で管理社会が描かれている。
とある農場、そこには多くの種類の動物が人間に飼育されていた。その扱いはひどいもので、ある日動物たちは結託して人間たちを追い出すことを決意する。動物たちのクーデターは見事成功し、人間たちは農場から逃げ出していった。それから動物たちによる自治が始まった。
これが物語の序盤である。だいぶファンタジーな設定で、動物たちがお互いに会話をすることが出来る。犬や馬、豚やアヒルなどがそれぞれ会話をするシーンなんかは微笑ましい。
動物たちは人間がいなくなった農場である理想を掲げる。それは全ての動物たちは平等である、という理想である。動物たちは理想と生活のため、リーダーを選んだ。知能の高い豚がリーダーに選ばれ、最初の方は理想の実現のために全ての動物が頑張っていた。
しかし、指導者の豚は少しずつ自分の権力を拡大させていき、他の動物たちとの格差が生じるようになっていく。
「1984年」も傑作のディストピア小説だった。こちらは人間の社会の話で、体制は既に出来上がってしまった世界である。そこで生きる人間と、未だ残る革命の伝説にすがる話で、非常にリアルな作りになっている。市民たちが互いに監視しあい、体制に反発する素振りさえ見せることができない、完成された監視社会の話だ。
「動物農場」は虐げられていた存在が、革命によって自由を得るところから始まる。人から解放された自由と、全ての動物が平等というスローガンを掲げる理想的な世界から、だんだんと権力に支配された世界にまた戻っていく過程が面白い。
6.図書準備室 田中慎弥
表題「図書準備室」と「冷たい水の羊」の二本が収録されている。
「図書準備室」は30を超えた男が、なぜ自分が無職で、これからも働くつもりがないのかを、延々と喋り続けるという、どうしようもない物語だ。男は自分が中学生だった頃の話を長々と喋るのだが、随所にその男が世間一般とずれているところを感じ取れる。男にその自覚があるのか、それは微妙だ。
男が中学生だった時、吉岡という国語の教師がいた。ある時二人は図書準備室で二人きりになる。そして吉岡が語る、彼が子供だった時の戦時中の話と、物語はさらに過去に繋がっていく。
それらが、なぜ男が無職なのかという話と繋がる訳ではない。すべて無職の男の詭弁だ。
「冷たい水の羊」はいじめられっ子の中学生が、好きな同級生と無理心中しようとする話。うーん、やっぱりまともな話ではない。
主人公の真夫はいじめられている。殴られ、金を要求され、物を壊される。それらは明らかにいじめなのだが、真夫は自分がいじめられているということを認めない。教師に追及された時もそれを否定し、自分の中でも、本当に自分がいじめられていないと思い込む。そう思い込むことで何かを守っているのだが、彼は本心を誰にも明らかにすることが出来ない。そうやって自分の中でため込んだ様々な思いが、結果、好きな同級生を殺した後に自分も死ぬという計画に繋がる。そこにはもちろん理屈なんてないのだが、思春期の性欲やいじめという事実、両親とのすれ違いなどでそこに結びつく。その屈折した考えが丁寧に、時に突飛に描かれ面白い。
どちらの話も、結局は詭弁でしかない。しかし自分の中で蓄えられた考えや思い込みが、結果妙な理屈として積みあがっていく過程が興味深い。
7.砂の女 阿部公房
昆虫採集に出かけた男が、砂だらけの集落に囚われる話。男は周囲を砂に囲まれたボロ家に囚われ、村の女と一緒に生きていくはめになる。生活の全てに砂が問題として関わってきて、家が埋もれないように砂かきをして一日を終えるような生活だ。外からやってきた男はそんな生活にむりやり巻き込まれる。
砂の穴にとらわれ、そこからどう逃げるかというサスペンスとしても面白い。
あの砂の性質と洞察、村の実態だけで面白い。奇抜なだけでなく、練りに練られた設定は、その説明だけでそそられる。
一方で、そこで暮らす人間や人生そのものへの洞察も鋭く面白い。一度穴から出て、そのあとまた戻されてから、あの世界に慣れていく過程も面白い。とにかくどこを切り取っても面白い作品だった。
サスペンス的に面白い読み物である一方、人間の本質的な問いも提示される。人生って何なんだ。人がかごの中の虫を観察するように、砂に囚われた人間の生き様、考え方を見ることが出来る。
8.行人 夏目漱石
頭が良すぎてどうにかなってしまった男の話。妻の本心が分らず、子供は懐かず、弟は信じられず。そんな感じで人間不信になり、ついには弟と妻の関係を疑ってしまう学者の苦悩が描かれる。
他の夫婦も何組か登場しており、結婚がテーマだと思われる。どの夫婦もなにかしら問題があるようで、ままならない。でも、独身の弟や妹もあーだこーだ悩んでるようで。皆あれこれ悩んでる。その苦悩と描かれる微妙な人間関係が素晴らしい。
それと、温泉旅館での妻がエロすぎる。直接的な描写がされるわけでもなく、行為に発展するわけでもない。しかし、さりげなく表現される色気や妖艶さが端的ながらも効果的だ。「草枕」でも温泉の女性の描写がかなり色っぽいので、漱石は温泉につかる女性が好きだったのかもしれない。
9.女のいない男たち 村上春樹
6つの短編集。タイトル通り、女性を失ってしまった男が主題。
まず、文章の読みやすさ。これはやっぱりずば抜けている。比喩表現や、内面の描写の仕方が素晴らしい。
一方で、設定は不可解というか、全貌が明かされないものもある。あくまでその状況に置かれた人間が何を感じ、どう生きているのかを語ることに注力している感じ。
短編の一つ、「シェエラザード」では、男がどういった状態にあるのかほとんど分らず、女性の語りでほとんど終わってしまった。その女性の語りも、やってることはやばすぎる。
このテーマで、母親を失った息子の話は出てこないんだな、と読み終わった後思った。書いてないことにあれこれ思うのも的外れだが。母性とか、それを求める息子とか、そういった思いは村上春樹の興味ではないのかもしれない。あくまで自分のパートナーとしての女性。それを描きたいのだろう。
10.永遠の春 山口泉
異質だった。大風呂敷のような設定、それも作中登場する作品と入れ子構造になっており難しい。文章も巧みで鋭い表現がところどころにある。だが、読み終わると置いてかれるような、すごいもんが通り過ぎていったという感じがして、呆然とする。
性のことがテーマの物語に、性に無関心な男と女が登場するが、彼らはあまり個性的でないというか、淡泊でまともな人間だ。一方で自分の子供を持つ人物はどぎつい個性やどろどろとした欲を持っている。それが性の放つグロテスクさだろうか。
以上、2025年に読んで面白かった本10冊だ。
気づけば日本の本と外国の本が半々だ。SFが好き。有名どころで読んでない本もいっぱいあるので、まだまだ楽しみが残っている。グレッグイーガンとかフィリップKディックとか、その他いろいろ。
国内外、時代を問わず、気ままにいろいろ読んだ。その中でも読みやすいのは、今の日本人が書いているものだ。これは断トツ。やっぱり、言葉使いや出てくる単語に親しみがある。翻訳された洋書は読みやすさの当たりはずれが大きい。でも、読みにくくても良い文章もある。
2026年ももっと本を読みたい。
終わり