montokokoroの日記

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2023年の本ベスト約10冊。後編。

2023年の本ベスト約10冊。後編。
前回のブログで紹介した5冊の残り。どぞー。

 

6,蠅の王/ウィリアム・ゴールディング
南の無人島に不時着した数十人の子供達が、自分達の力だけで生きていく話。食料も豊富で猛獣もいない島なので、最初は大人の管理のない世界でただ楽しんで生活をしている。しかし、救助のための計画が上手くいかなかったり、皆で決めたルールを守らなかったり、段々と生活への不安が高まる。やがて子供達は二つの集団に分裂する。別れた方のグループはルールを無視し、狩りに興じ、暴力の楽しさを見いだし、やがて二つのグループ同士の戦いになる。
ロジェ・カイヨワの「遊びと人間」によれば、原始的な社会では仮面と眩暈による遊びが社会の結束を強める。仮面とは自分を偽るための装いで、眩暈とは理性を弱めることだ。分離したグループのリーダーのジャックは、顔に不気味な化粧をして自分ではない人格をまとう。ルールを無視して、集団で狩りに勤しむ。本来なら、救助のために火を絶やさないことが大事なのだが。化粧で暴力的な自分を装い、そして集団で踊りながら、豚の真似をする子供を囲んで皆で殴る。そういう儀式で集団は狂気でまとまっていく。
最初はどの子供達も、ルールと理性で救助のために最適な行動を取ろうとしていた。しかし段々と不満が募り、最後には争いに発展していく。
読んでいてつらい話だったが、名作だ。そんな名作なのに、文庫で400pないのに1000円って。もうちょい安くしてくれ、ハヤカワepi文庫。この5年くらい、体感として本の値段が上がっている気がする。もうちょい安くならねーかなー。

 

7,偶然性の問題/九鬼周造
哲学書。偶然とは何かを考える書。形式としてはかなり読みやすかった。時々観念を図でまとめているのが面白い。章立ても綺麗だ。この章では何をしているのか、それはなぜ必要かのか、全体的に今何を論証しているのか、という話が分かりやすい。そういうパラグラフライティングが本当に綺麗で分かりやすい。
一方で、取り扱っている話自体は難しいし、引用も古今東西の様々な文献から持ってきており、それも理解が難しい。
哲学書の難しさは2種類あると思う。まず、取り扱うテーマや使われる語彙が難しい。これはある程度許容出来るというか、しょうがない。簡単に言えてしまえるものは問題になり得ないだろう。もう一つが文章の難しさだ。なんか、文学的にも評価されようとしてない?っていう文。分かりにくいからもっと簡潔に表現して欲しい。もっと文を分けて欲しい。補足なら補足と言って欲しい。導入とまとめをもっと意識して欲しい。とにかく、その2点の難しさが合わさると最強な文章が出来る。
文章の難しさという点では、この本は本当に綺麗だった。胡乱な表現もほとんど無かった。内容は滅茶苦茶難しいけど。
理解できない自分が悪いし、理解できない部分があってもいいと思う。分かる部分や、気を引く部分を丁寧に拾おう。こっちは素人なので。
この本の内容は難しかった。読んだ後の感想としては、偶然に身をさらすことへの恐怖が少し薄らいだ気がする。偶然への諦めの芽が自分の中に出来たかも。それでも依然として、偶然は怖いけどね。
時々、理路整然とした文章が荒れている所があった。そこはかなり熱血な文章になる。おそらく、その当たりの文章が、九鬼が一番声を大きくして主張したかったんだろうなと思う。

 

8、神々の沈黙/ジュリアン・ジェインズ
人類が意識を獲得したのは、およそ3000年前だ。それが本書の主張である。
本の最初では今までの哲学や脳科学が心身問題にどう取り組んできたのかを振り返り(原書は英語で1970年代に出版)、その上で「意識は〜ではない」という確認から始まる。この辺りのやり方は丁寧な手順だ。意識という言葉は多くの意味を持ちすぎているため、まずそれをそぎ落としていく。そこから議論を開始する。
本書の主張では、人が現代の意識を持つ前、二分心という意識の在り方をしていたそうだ。二分心では頭の中に神の声が聞こえてきて、それに従うのが自明とされていたそうだ。
その辺りの根拠は現存する当時の文章から持ってきている。およそ3000年前のものとされる「イーリアス」では、語彙の使われ方や比喩表現の違いから、意識と呼ばれるものがかなり違う構造をしていたとされる。
とまあ、一応まとめてみたけどほとんど理解できていない。根拠とされる重要な部分が古代の西洋とか地中海あたりの歴史の話に基づいているのでかなり理解しづらかった。主張自体も分かりやすいものではない。しかし、そういう仮説を立て、それに証拠を示しているという営み自体は素晴らしい。
そういえば、大学の学部1年の時に古代ギリシャ語の講義を取っていたが、あっさり落とした。あの単位を取れるぐらい勉強していればもう少し理解が深かっただろう。でも、文学部の3,4年が5人くらいしか受けていない講義だった。あの人達は研究や卒論とかで必要だったんだろうと今は思う。そんな所によく分からん学部1年の私はなぜ参加したんだろう。今思い出すと愚かすぎる。けど、大学の授業は高校までと違って、マジでいろんなことやってるんだなーってことが体感できた。そういう意味では良い体験だったかも。いや、やっぱり愚かだったな。過去の自分愚かすぎる。
言葉の獲得と心の発生は密接な関係があると見ており、これは他の心の哲学でもしばしば見られる。本書では特に書き言葉の影響を重く見ており、それが二分心から現在の心への変化のきっかけと見ている。
この本を手に取ったきっかけは、なんとなく本屋を歩いていて時に適当に手に取ったことだ。「神々の沈黙─意識の誕生と文明の興亡─」というタイトルは強烈すぎる。伊藤計劃の「ハーモニー」好きの私の前に本書のような主張があれば、読みたくなってしまうのはしょうがないことだ。かなり興味深い本だった。

 

9、やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。/渡航
ラノベ。この年に11巻から完結の14巻までを読んだ。それまでの巻はだいぶ昔に読んだ。高校生の時とかに追ってた。大学1年の時くらいに最終巻が出て、買ってそのまま置いてた。なので、5年位の積ん読をようやく読み終えたことになる。精神的にこれは大きい。数年間本棚の一角に鎮座していた、読まれずの本を読むことができた。かなり大きなタスクをやり遂げた気分になった。
それとは別に、外山滋比古積ん読も、今年読み終えた。これも個人的快挙だ。昔ブックオフに大量に100円で置いてあった文庫を数冊買って、そのまま置いていた。それらをようやく去年読み終えた。
外山滋比古の文章力はすごい。例えば、「「読み」の整理学」という文庫は、読み方には2種類あるというテーマで成り立っている。その2種類の違いを色んな例を示し、様々な角度から論じる。文章の読みやすさもあるし、たったそれだけのテーマで最後まで書いており、結構面白く読めた。これも良い本だった。あと、色んな本で同じ話を何度もしているのも面白かった。作者が同じだしエッセイっぽい書き方だから、同じ話を使い回すのも分かるけど。それってありなんだって思った。あり、らしいです。
さて、俺ガイルについて。最後の1000pくらいは、さっさとくっつけという気持ちで読んでたというのが正直な感想。でも、その当たりのことに口実や建前が必要なのが、主人公の比企谷八幡という少年らしい。拗らせてるけど。
ストーリーの終盤では、終わらせることに焦点が当てられる。何かを終わらせることの重要性、必要性を考えながら、自分達の落としどころを探していく。その過程が寂しくもあり、どこか誇らしげでもある。
高校生の当時は八幡や雪乃と同い年だったのに、いつの間にか陽乃を追い越し、一番近い年齢は平塚先生だ。光陰矢のごとしとはこのことか。青春ラブコメしてこなかったな。しっかり恋してちゃんと振られておけばよかったと思う。ちゃんと区切りをつけること、それがほんとに大事。
あと、シリーズの後半の方だと、作者の労働への愚痴が多い。兼業作家は大変そうだなあ。

 

10、レッドゾーン/夏川草介
これも積ん読。2022年に読んでよかった10冊の本でこの前作の「臨床の砦」を挙げている。これを読んだのが2022年の10月あたりで、その時にはもう「レッドゾーン」は手元にあった。読もうと思っていつの間にか積んでいて、2023年の12月にようやく読んだ。1年以上積まれてた訳だ。
前作「臨床の砦」の続編にあたるのが本作。前作は新型コロナ流行の第3波の時の話で、激務のコロナ治療の現場が描かれていた。
今作は第1波、病院がコロナ患者を受け入れるところから始まる。本当に最初の方から。医者達もどこか他人事のようにコロナの惨劇を見ていた。国内の感染者数も数十人で、ダイヤモンドプリンセス号の感染者も横浜か関東の大病院で治療がなされるだろうと。それが急にコロナの治療をすることになる。本作を読めば、当時の現場の恐怖が伝わってくる。当時は何もかもが未知のウイルスだったのだ。そこに日本より一足早く感染が広がったヨーロッパの情報だけが入ってきて、恐怖だけが募る。そういった状況で患者を受け入れ治療をするということがどれほどのものだったのか。
今作は3人の医者に焦点が当たり、3つの短編が収録されている。一番面白かったのは、表題でもある「レッドゾーン」。皮肉屋で小心者の内科医・日進が、コロナ治療チームの一員に選ばれる。なぜ彼が選ばれたのか。そして新型コロナという未知のウイルスにどうやって医療をすればいいのか、という話だった。家族からも拒絶される中で、高尚な使命感を持っているわけでも無い、小心者から見た新型コロナが伝わってくる。

 

以上の5冊が後編。前回上げた分も合わせて10冊、2023年に読んでよかった本。他にもいろんな面白い本を読んだが、今回はなんとかこの10冊に落ち着いた。
前回のブログで言った目標以外にもう1つ今年の目標。それは隔週に1回はブログを更新すること。
前回の更新の時点で既に遅れているけど、薄目で見ると大体2週に1回上げてるように見えてくるはずだ。去年は何もしてない月とかざらにあったので、それはちょっとなと思った。読書もそうだが、ペースに最低ラインを設けたい。やる時はばーっとやって、やらない時は何もしないっていうのは、なんか嫌なので。
そんな感じで今年もだらだらと、ブログ更新していこうと思っております。
終わり