montokokoroの日記

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2月に読んだ本

2月に読んだ本の紹介。ネタバレとか気にせず書いてるので、ご注意ください。

 

女生徒/太宰治

全て女性の一人称視点で書かれた14の短編を集めたもの。

太宰治の作品をちゃんと読んだのは初めてだったが、まず文章力がずば抜けている。

短編の主人公達は全員生きづらそうにしながら、理想とかなにかを求めている。しかしその求めているものが何なのか自分でもよく分かっていない。

たった4Pの「待つ」が素晴らしい。女性が駅のベンチに座って誰か、いや、もっと漠然とした何かを待っているだけだが。彼女は何を待っているんだろう。自分でも分かっていない何かをずっと待っているだけ。

すごい文学作品の感想を自分の拙い文章で感想を書くことは難しい。とにかくすごい。

 

光のとこにいてね/一穂ミチ

百合。

主人公は小瀧結珠(ゆず)と校倉果遠(かのん)の2人で、どちらも女性で同い年。この作品は3章構成で、1章では小学2年生の時に2人が出会い、2章では高校生の時に2人が再会する。3章では大人になりそれぞれ家庭を持ってから再び再会する。つまり2人の女性の出会いと別れの物語。

2人の視点が交互に入れ替わりながら地の文が書かれており、その交代がかなりの頻度でなされるので、同じ出来事に対してリズミカルに2人の心象が描かれるのは面白い。例えば第2章冒頭の2人の再会。ゆずは私立の一貫校の女子校に通っており小学校から(あるいは幼稚園から)高校まで同じ系列の学校に通っている。その高校にかのんが入学するところから始まるが、2人はそれぞれ顔を一瞬見ただけで互いを認識する。小学校2年で別れたっきりなのに。ゆずは突然の再会と一気によみがえる記憶に驚く。その後にすぐかのんの視点で文章が書かれ、その時は一言も言葉を交わさないが、その再会はかのんがずっと待ち望んでいたものだと分かる。小学校2年の時にゆずが来ていた制服から私立の一貫校に在学していることを突き止め、貧乏な家庭のかのんが特待生で高校に入学するためにどれほど努力をしてきたかが分かる。ほとんど忘れていたことを不意の再会で思い出しただ驚くだけのゆずと、ずっと待っていた再会なのに、その場では言葉を交わせないかのんの複雑な気持ち。こういう風に2人が同じことに対してどう思っていたのかが頻繁に交代される地の文で明かされていくのは面白かった。

この本の主題はゆずとかのんの関係で、それは純愛だと思う。ドストレートの百合だ。1,2章はそれがすごく描かれていて百合豚の妄想を煮詰めたような展開と描写が続く。正直、胃もたれしてしばらくそこから読めなかった。対照的な2人の性格や家庭とか、親の都合で1,2章どちらも理不尽に別れるとか、メロドラマって感じ。

だが3章で再会する時にはお互い家庭を持っており、2人はお互いだけを見ていれば良い訳では無くなる。で、問題はそこで描かれたそれぞれの家庭の気持ち悪さと居心地の悪さ。かのんは夫と7才の娘がいるんだが、家族っぽくない。良く言えば娘に対して放任主義で、夫には恩義を感じている。3章のスタンスとして、「他人は他人、自分は自分。共有する感情や過去はあるけど、絶対に共有出来ない部分もあって家族でもそうでしょ?」っていう姿勢をかのんもゆずも持っている。家庭というものが一番近い他人くらいの繋がりだ。いや、全ての家庭はそうなんだけどね。でもこの家庭はアンチ映画版クレヨンしんちゃんって感じで、家庭特有の熱やつながりがあまりにない。子供の時のかのんは父を知らず、貧乏な母は歪な思想と拘束を押しつけていた。母の地元に行ってからも祖母から愛情なんてものは受けなかった。ゆずも何不自由ない裕福な家庭と教育だったが、彼女に与えられるものは母から用意されたものしかなく、父と年の離れた兄は不干渉だった。どちらも系統の違う不健全さの家庭だった。その不健全さが彼女らが母になっても再生産されているのは結構つらい。まあ、よく言えば2人の純愛を照らすために歪な家庭と家族の価値観があるとも言えるけど。

純愛とあえて言ったけど、2人の関係は名状しがたい。山場っぽい場面をあっさり描いているのは惜しい気がするけど、私が読んでてあまり乗れてなかったかもしれない。

 

推し、燃ゆ/宇佐見りん

ある男性アイドルを推すことでしか生活の実感を得られない女性の話。この主人公は推しのこと以外では、家事や勉強など一切駄目でどうしようもない。そのどうしようもなさが憎めないし、実際何かしらの病気の診断もある。しかし周囲の人間は離れていく。彼女の前にはますます推しを推すことしかなくなる。

推しを応援して、あらゆる情報を取得して彼のことを解釈することが彼女の生きがいで、物語の前半くらいまでは彼女のことより推しのことの方がよく分かってしまう。それほど推しを分析しているし、彼女にはそれ以外のことがなさ過ぎる。

彼女と推しの関係性がずっと固定しているのも良かった。ずっとファンとアイドルのままで、彼女の推しのスタンスは変わらないままだった。偶然彼とお近づきになり、裏の姿を見てしまうとか恋愛関係になるとかは一切ない。なので彼女は出される情報のみで彼のことを分析していくだけ。冒頭の推しの炎上に関しても憶測やネットの噂はあまり気にせず推しの言うことを待つ姿勢で、結局真相は分からない。

推しの誕生日にホールケーキを注文して1人で無理矢理全部食って吐いてしまうエピソードが良い。途中苦しくなりながらもなんとか全部食べきるんだけど、吐いてしまう。これに彼女の推し方が表れている。

アイドルや芸能人にはまって生活も思考もその人中心になってしまうみたいな経験がないので、強烈だった。何かを推すことで生きているが、そのためにいろんなものを犠牲にして生きづらくなってしまう。そこまでして生きて、それって何なんでしょうか。でも、生きないといけないので。

 

すべてがFになる/森博嗣

良かった部分と悪い部分がはっきり分かれている。トリックはかなり驚いたし、そのための物語も面白い。久々に徹夜して一気に読んだ。だがそのためにいろんな部分がおろそかになっている印象。

登場人物と事件の舞台、容疑者達、そして肝心のトリック。奇妙な舞台で謎が起こりつつ、ついには殺人が発生する。調査する中で新事実や人物の背景、嘘、怪しい人が出てくるけど、はたして意外すぎる真相とは?という流れが最高すぎる。まずトリックが面白すぎるしタイトルの「すべてがFになる」のメッセージの回収もおしゃれだ。

その一方で、いろんなところで無理が生じている。

まあ、いろいろある。

結局、面白いトリックを実現させるためにキャラクターのいろんなところがよく分からなくなってしまった。目的のための手段として今回の計画殺人があったとする。そうすると目的はなんだったのか、その手段しか無かったのか、とかとか。とにかくいろんな疑問が生じる。

 

四畳半タイムマシンブルース/森見登美彦

オタクがちょうど読みたい物語とキャラクターなんだけど、ちょうどすぎて気持ち悪くなってしまった。これを読んで面白がっている自分を見て気持ち悪くなる。

昔四畳半神話体系を読んで京都の大学性への憧れをこじらせたのを思い出してまた気持ち悪くなってしまった。

自分の大学時代、何もしなかったし、何もなかったな。

美人でクールな後輩に「先輩」って呼ばれたい。経歴不詳の仙人みたいな先輩と遊びたい。こういう願望がちょうど良い温度で作品にされてて、オタクの気持ち悪い部分が鍛えられる。こういう読み方も気持ち悪い。

表紙の中村祐介のイラストも、読み終わってから見てみるとあちこちが面白い。

 

火狩りの王(2)/日向理恵子

やっと2巻まで読んだ。この巻の後半あたりからは「世界」という言葉が何度も出てくる(以前からそうだったのかもしれないけど)。どうしようもなくなってしまった世界に対して、それぞれのキャラクターが抱く期待や感情が直接描かれてきてこの作品が伝えたいことが多少分かった気がする。まあ、まだ半分なので。4巻で完結らしい。5巻はキャラクター達にまつわる短編集らしい。

 

女生徒/太宰治

光のとこにいてね/一穂ミチ

推し、燃ゆ/宇佐見りん

すべてがFになる/森博嗣

四畳半タイムマシンブルース/森見登美彦

火狩りの王(2)/日向理恵子

 

2月は6冊読んだ。

1年100冊計画、どんどん遅れています!

まあ、遅れることにかけては一家言あるので。

大丈夫。遅れこそ人生です。

 

終わり。